興福寺 秋の特別拝観「お堂で見る阿修羅」

毎年春と秋にやっている興福寺の特別拝観ですが、通常の北円堂*1・仮金堂*2の開扉だけではなく、今回は東京・九州と巡回展示してきた八部衆像のお戻りを記念して、仮金堂内に八部衆像を並べて見せるという企画となりました。その名も
「国宝 阿修羅展」帰山記念 興福寺国宝特別公開2009 お堂で見る阿修羅
まず名前からして大げさな感じがします。
正倉院展を見た後だったので、すでに時間は午後3時。遠目に見ても結構並んでいたので、大丈夫かなーと思いながら券売所に行くと、「待ち時間 仮金堂:60分 北円堂:60分」の文字が。阿修羅が人気なのは知っていますが、正直一回見ているので(爆)まだ見たことのない北円堂から並ぶことにしました。
この日の奈良は午後から結構冷える、とのことだったので、念のためウインドブレーカーを持ってきてたのですが、予想通り、午後3時を過ぎて凄い冷えてきました。吹きさらしの野外で並んでいる上に、若干雨もぱらついてきてたので、なかなか厳しい状況で待つ羽目になりました。
私の前に並んでいたのは女性二人組でした。周りを見渡すと、多くは年配の方だったのですが、所々若い女性のグループがいて、これが巷で噂の「アシュラー」「仏像ガール」か! などと独り合点していました。

北円堂

さて60分待ちと書いてありましたが、その通り大体1時間ほどで北円堂に入ることができました。北円堂は、西国札所第九番の南円堂と対をなす円堂(八角形のお堂)で、1200年頃再建されました。当然ながら国宝です。堂内には運慶晩年の作と言われる本尊弥勒如来(国宝)を始めとして様々な国宝・重要文化財の仏像が安置してあります。
北円堂の仏像の中で、私が是非注目してほしいと思うのが、国宝木造無著・世親立像*3。5世紀くらいに法相教学を確立した僧侶として知られる二人ですが、ただ立ってるだけの像なのに、この迫力がたまりません。表情も精悍で、力強さを感じさせます。傑作の名にふさわしい名品と言えるでしょう。

仮金堂

続きましては仮金堂です。北円堂を見終わった時点で午後4時半くらいでしたので、結構ギリギリな感じになってきました。しかし、60分待ちとは書いてあったものの、実際には30分くらいで入ることができました。おそらく、どう頑張っても30〜40人くらいしか一度に入れない北円堂と比べて、仮金堂は結構大きな伽藍ですので、一度に入れるキャパシティが大きかったのでしょう。
しかし入ったら唖然としました。
本尊の釈迦如来坐像の前に、阿修羅像が置いてある!
どう考えてもあり得ないでしょ。本尊の前に八部衆の一角を置くって。まあ今回の特別展示の題名が「お堂で見る阿修羅」ですから、阿修羅像がフィーチャリングされるのは分かるんですが、この置き方はさすがにないやろ。確かに釈迦如来像は江戸時代の作品で、美術品的には国宝である阿修羅像の方が格上なのは認めざるを得ない。でもやはり本尊の前に腕を広げまくった阿修羅像を置いてしまうのには抵抗がある。
まあ仮金堂の構造上、こういう風に置くしかなかったのかも知れないけど、お寺がやったらあかんのと違うか、と違和感を覚えざるを得なかったです。おそらく僧侶じゃなくて、キュレーターが展示設計したのだろうなあ。
置き方にはいろいろ文句があるんですが、お堂の後方には見やすいように蛇行したスロープが設置されていました。これは博物館で名品を展示する際によく使う方法だと思うのですが、阿修羅目当ての人が多いので、これは正解だったと思います。一通り見るだけでよい人と、阿修羅をしっかりと見たい人で、人の流れが分散されていて、よく計算されているなと思いました。
あと、八部衆像の中で、五部浄像は大破していて、本当はガラスケースに入れるべき保存状況だったのですが、今回は露出展示に踏み切りました。お堂に置くという性格上、ガラスケースは無粋きわまりないので、私としては嬉しかったです。ホコリや湿気で仏像が劣化していくので、露出展示はめったにないことを考えると、貴重な体験だったと思います。最後に、北円堂と中金堂*4の朱印をいただいて帰りました。この2カ所の朱印は、特別開扉の時にしか授けてくれないので、是非欲しかった朱印です。