東京都美術館 ボルゲーゼ美術館展 感想

http://www.borghese2010.jp/
土曜日のエントリの続きです。
東博で土偶展と平常展を見た後、東京都美術館ボルゲーゼ美術館展を見てきました。
結構混んでるかと思いきや、待ち時間はゼロ。日本人にあまり知られていない美術館なので、展覧会の名前での訴求力はそれほどでもないと言うことなのでしょうか。ただ団体さんがちょうど来ていて、若干人が増えてきた時間帯だったようです。

ボルゲーゼ美術館展 概要

ボルゲーゼ美術館は、イタリア・ローマ北東にあるボルゲーゼ家のコレクションを収蔵する美術館です。ルネサンス期・バロック期の美術品の豊富さでは、世界有数とも言われているようです。
本展では、ボルゲーゼ美術館から選りすぐりの絵画・彫刻50点を出品し、時代別に展示しており、イタリア美術250年の歴史を概観できるようになっています。ラファエロを初めとして、ボッティチェリやカラヴァッジョ(カラヴァッジオ)など、日本人にも知られる画家の作品も出品されています。
作品を時系列に並べていて分かりやかったですし、レイアウトも、落ち着いた赤や青の背景に適度な間隔を空けて作品が展示されていて、好感が持てる構成でした。ただ建物の構造上、地下1階から始まって、2階に上がり、見終わった後に地下1階に降りる必要があります。東京国立博物館を一周してきた後に見るのは地味に堪えました(爆)
ルネサンスの作品が好きな人には非常におすすめと言えますが、インパクトのある作品はラファエロの「一角獣を抱いた貴婦人」くらいで、全体的に若干地味な印象があることは否めません。おそらく知名度の問題が大きいのでしょう。正直、私も作者の名前は先ほど挙げた人たち以外は全然分かりませんでした。
ただ逆に言えば、作者とか作品の来歴といったことをを気にせず、作品自体を楽しむ展覧会として見れば、どれもイタリア美術の最高峰、一級品ばかり。私は展覧会では結構さらっと見てしまう方なのですが、気に入った作品がいくつもありました。おそらく誰でも、どれか好きな作品に出逢えることは間違いないと思います。

作品

気に入った作品をいくつか紹介します。気に入ったのが多かったので、今回は多めです(笑)

まず最初にお迎えしてくれるのが、ベルニーニによる「シピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿の胸像」。大理石彫刻ですが、自信たっぷりで風格に溢れた枢機卿が、のっけから期待を大きくしてくれます。「オルフェウスの姿のシピオーネ・ボルゲーゼ」は、ボルゲーゼ枢機卿オルフェウスに見立てて表現した作品。あり得ないくらい緻密なモザイクで、思わず「これやべぇ」とつぶやいている自分に気づきました(笑)

ラファエロの「一角獣を抱く貴婦人」は、別の人によって上書きされてしまっていたのですが、修復の結果、元の姿を取り戻したという曰く付きの一品。ラファエロが20代の頃の作品らしいんですが、前を見据える貴婦人の安定感が、卓越した才能を感じさせます。あと、昔の状態の写真を用いた解説パネルも展示していて、作品の来歴をよく理解することができました。書き換えられているというのは20世紀に分かったらしいんですが、X線や赤外線による分析などもなかった時代、どうやって分かり得たのかが不思議です。

レオナルド・ダ・ヴィンチの「レダ」は、原作品は既に失われており、模写が出品されています。ただそれでも、モナリザの面影を感じさせるレダと、ムダにエロい白鳥*1は、レオナルドの表現を忠実に再現していると言えるのではないでしょうか。

ヴィーナスを題材とした作品もいくつか出品されています。私の特にお気に入りは、ブレシャニーノ「ヴィーナスとふたりのキューピッド」。ギリシア彫刻のような立ち姿のヴィーナスで、非常にエロい作品です(笑) ただ、エロいのは確かなのですが、そこに下品さはなく、逆にこちらが圧倒されてしまいました。あと、微妙に永作博美に似ている気がしました。

カラヴァッジョ「洗礼者ヨハネ」は、殺人を犯して逃亡中の彼が、取りなしを期待してボルゲーゼ枢機卿に贈るため、亡くなる直前に描いた作品です。しかし、枢機卿が作品を受け取るのは、彼の死後でした。そんな極限状態で描かれた作品であると言うことも考えると、暗闇の中にいるヨハネの、どことなく物憂げだけど、妙に惹きつける印象も説明がつきます。
この他にも「支倉常長像」、「魚に説教する聖アントニオ」、「我に触れるな(ノリ・メ・タンゲレ)」、ギルランダイオによる「レダ」「ルクレツィア」の連作など、面白い作品はいろいろあったのですが、挙げればキリがないのでやめておきます。



東京都美術館は、このボルゲーゼ美術館展を最後に、2年間の大規模改修に入ります*2。有終の美を飾るにふさわしい、有意義な特別展でした。

*1:白鳥はゼウスがレダを誘惑するために変身した姿です

*2:確かに、建物はいろいろ昭和な雰囲気が漂っていて、少し改修は必要だなとは思いました(前述の階段上り下りとかね)