京都国立博物館 長谷川等伯展 感想

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長谷川等伯の没後400年記念ということで、特別展が東京国立博物館京都国立博物館で開催されています。
東京のは3月だったので、残念ながら行けませんでしたが、たまたま京都はゴールデンウィークにかぶっていたので、これ幸いとばかりに行っていました。

総評

戦国時代から江戸時代初期にかけて活躍した希代の絵師、長谷川等伯能登の絵仏師から始まり、上洛、祥雲寺の金碧障壁画制作、息子の死、そして傑作松林図屏風に至るまでの系譜を、圧倒的な物量で表してくれます。国宝3件、重要文化財30件を含む、等伯の代表作がほとんど集まる、希有な展覧会と言えます。
長谷川等伯の業績を追いながら、主要な作品を丁寧に見せてくれているので、等伯のことをあまり知らない人でも、とても分かりやすいです。戦国・桃山・江戸という波乱の時代のただ中で、自らの才能と技量を武器に、スターダムを駆け上がっていった長谷川等伯の一生を、たった1400円で堪能できるのは、安すぎます。
ただ、唯一難点を挙げるとすれば、襖絵や屏風などの大きい作品が多いのですが、かなり混んでいるために、適切な距離で見るのが困難ってところでしょうか。大判の作品は、本来置かれていた場所を思い浮かべながら、ある程度の距離を置いて、全体を見るようにするのが好きなんですが…。みんな食い入るように見過ぎ(笑)


本展覧会は、5/9までの開催ですが、ゴールデンウイーク期間中は、午後7時まで時間を延長して開館。少しでも興味のある方は、絶対に見に行った方がよいです。
ちなみに、午後すぎの方が若干空いているようです。公式サイトから混雑状況も見れるので、確認してみるとよいと思います。

お薦め作品

個人的にお薦めの作品を、展示順に紹介します。

山水図襖


現在は圓徳院に納められていますが、元は大徳寺の塔頭三玄院の方丈を飾っていた襖絵と言われます。
襖絵にしては珍しく、桐文様が刷られた紙の上に描かれています。これには逸話があり、当時等伯が襖絵を描くことを住職にお願いしていたのですが、断られ続けたので、住職が不在の間に勝手に上がり込んで一気に描き上げた、らしいです。
料紙の選択、墨一色であることを考えると、流石に一気に描いたとまではいかないでしょうが、概ね似たような状況で描いたことが想像できます。しかし、実際に細かく見てみると、墨一色で描かれているにもかかわらず、丁寧な点描が、繊細な情景を表現しています。どんだけ細かいねんという感じです。

仏涅槃図


高さ10メートル、幅6メートルにもなる、巨大な涅槃図。お世話になった人々や一族を弔うために等伯自らが寄進した大作です。
博物館に展示するには大きすぎるため、天井からつり下げた上に、途中から斜めの台を置いてくの字型の展示となっています。とにかく、デカい!
展示の都合上、中央部分より下は見づらくなっていますが、仏陀の涅槃を悲しむ信者や動物たちの細部の描写はさすがのもの。中央室一室を用いての大展示、じっくりと見て欲しい作品です。

楓図壁貼付


秀吉の命を受けて、祥雲寺の金碧障壁画を任されることになった等伯狩野永徳亡き後とは言え、狩野派を差し置いてのプロジェクト受注は異例であり、そしてそれを無事成功させた等伯の名は、一気に知られることになりました。
現在は智積院にある祥雲寺の金碧障壁画。その中でもこの楓図壁貼付を紹介したいです。
様式美を重んじる狩野派とはまた異なる、法則に捕らわれないダイナミックな楓の枝振り、そしてきらびやかな葉の乱舞。まさに桃山時代を象徴するような名品です。

松林図屏風

展覧会の最後に控えるのは、等伯の最高傑作、国宝松林図屏風。

墨一色の濃淡だけで、霧がかった松林の情景を多層的に表現しています。水墨画でここまでの湿潤感を表現するのは並大抵ではありません。霧の中の湿った空気が肌にまで伝わってくる、とは言い過ぎでしょうか。
現在は屏風になっていますが、元は障壁画の草稿として描かれたとの説が有力とのことです。そのため、本展では屏風を伸ばした状態で展示されています。東京国立博物館の平常展で展示される際にはあり得ないこの姿、じっくり見たいものです。
また今回は、本作を元にして制作されたと思われる「月夜松林図屏風」とセットで展示されています。2つを比較してみるのもよいでしょう。