オルセー美術館展2010「ポスト印象派」 感想

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金曜日はノー残業デーと言うことで、声をかけられる前に職場から逃亡して早めに仕事を切り上げて、オルセー美術館展2010「ポスト印象派」を見に行ってきました。

展覧会概要と感想

本展は、その名の通りオルセー美術館から出品された、ポスト印象派に位置づけられる115点の作品を展示しています。
1880年代から登場してきた、印象派に影響を受けつつも、新たな芸術を指向する者たち。印象派の後に出てきたと言うことで、「ポスト印象派(Post-Impressionism)」と呼ばれるようになりました。
モネ、ゴッホゴーギャンセザンヌ、といった日本人になじみの深い画家の作品が多く、美術館にあまり行かないような人でも、比較的とっつきやすい展覧会だと思いました。
ただ、展示後半のナビ派とかに行ってしまうと、若干表現が抽象的になってきて、わかりづらい作品が増えてくる感じはします。とはいえ、「空前絶後」と銘打つだけあって、選ばれた作品は傑作揃い。結構オススメだと思います。
ポスト印象派は、画家によって表現や技法が異なるのが特徴です。写実主義から抽象主義へ移行していく中で、それぞれに様々な表現や技法が模索され、生み出されていったのを感じ取れればよいのかなあと思いました。様々な画家が様々な方向性で描いているので、どなたでも一つは気に入った作品が見つかるものと思います。

おすすめの作品

有名な作品はいろいろ出ていたのですが、とにかくまず私が一番おすすめしたいのは、アンリ・ルソーの「蛇使いの女」です。

「蛇使いの女」を見ると、まずジャングルの木々、緑色の鮮やかさに目を奪われます。いったい何色の絵の具を使えば、このように表現できるのでしょうか。さらに、表題にもあるジャングルの中で立っている、笛で蛇を操る女性。あえて黒で表現することによって、妖しさ倍増。幻想的空間に神秘性を加えています。
驚くべきは、ルソーはこの絵を描くのにジャングルへ行ったことはなく、パリの植物園にしか行ったことがないということ。植物の緻密な観察と、自らの空想だけでこの幻想的な情景を生み出せる、彼の才能に脱帽です。この作品は、画像や写真ではその魅力を伝えきれません。是非実物を見ていただきたいです。


また、ゴーギャンの作品群9点も見応えがあります。文明社会に苦悩する日々から、「楽園」を求めて未開の地タヒチに旅立つまでの彼の人生を追うことができます。「黄色いキリストのある自画像」は彼の苦悩を表現した作品、「タヒチの女たち」は、楽園を求める思いがほとばしった作品といえましょう。


自然の象徴である星の光と、文明の象徴であるガス灯の光の対比を勢いのままに描いたゴッホ「星降る夜」。


ギュスターヴ・モローオルフェウス」。ポスト印象派に影響を与えた象徴主義の作品です。


ナビ派の作品からは、フェリックス・ヴァロットン「夕食、ランプの光」。一家団欒のはずなのに、どこか寂しげな暗い画面にひきつけられます。前面に人影が位置する大胆な構図がそうさせるのでしょうか。

他にも気に入った作品は様々ありますが、多すぎてきりがありません。気になった人は美術館に行くといいと思います。

国立新美術館

本展の開催場所は、乃木坂の国立新美術館でした。都内の一等地に、黒川紀章設計による贅沢な作りの建物が建っております*1。日本最大の延べ床面積を誇ります。収蔵品を持たないという特殊な形態の美術館ですが、展示センターとして割り切ったという意味ではよかったのかもしれません。
海外からの出品を招いて、日本で行う絵画展では、展示スペースが限られるため、どうしてもせせこましい感じになりがちです。ですが、今回のオルセー美術館展は、そういう懸念を一切抱く必要がありませんでした。余裕のある空間の中に、作品がもっとも効果的に鑑賞できるように配置されていました。キュレーターもあまり苦しまずにすんだことでしょう。さすが延べ床面積日本ーです。