東京国立近代美術館 上村松園展 感想

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仕事が早く終わったので、金曜の夜間開館を利用して、東京国立近代美術館で開催されている「上村松園展」に行ってきました。

概要

「珠玉の決定版」と銘打った、上村松園の回顧展です。
本展では、上村松園の作品を、年代や描写手法の変化に合わせて、三期に分けて展示しています。年を経るにつれて、外面から内面へと、描写の重点が変遷していくことを示した構成になっています。
なお、本展は前後期で展示替えがあります。前期(9/7〜9/26)では、「焔」や「草紙洗小町」、後期(9/27〜10/17)では「序の舞」や「雪月花*1」などが展示されます。

感想

このような回顧展は、いかに代表作を網羅するかにかかってきます。主要な作品をほぼ網羅している本展は、「珠玉の決定版」の名にふさわしいと言えるでしょう。浮世絵や能楽などの伝統的な文化を深く研究しながらも、近代的な内面描写に挑んだ上村松園の魅力を、簡潔かつ十分に表現していると思います。
松園は、女性を題材とした作品がよく多いですが、特に凛とした芯の強さを持つ女性をよく描きました。見た目の美しさや艶めかしさよりも、内面の描写を目指したものだったそうです。それだけに、ごくごく抑えられた表情の中にも、見ている方が身の引き締まるような印象を受けます。
展示フロアは、華美な装飾もなく、シンプルな構成です。間仕切りに薄いカーテンを使っていたところは、「楊貴妃」の透けた障子を思い起こさせて、ちょっと好感が持てました。
唯一、不満を挙げるとすれば、図録を購入したのですが、図版のみで解説のない作品が多く、写真集みたいな感じになってしまっていたところ。私としては、図録にはできればすべての作品に解説を付けてもらいたいなと思いました。
なお、後期では、松園の作品で唯一重要文化財に指定されている「序の舞」や、完成に21年を費やした皇室献上品「雪月花」など、見るべき傑作がたくさんあるので、10月頃に時間を見つけてまた行きたいと思いました。


1ヶ月余りという比較的短い会期ですので、できるだけ時間を作って、見に行ってもらいたい展覧会だと思います。

おすすめ作品


おすすめ作品と言えば、やはり「焔」を最初に挙げたいです。能「葵上」をテーマにしたもので、生き霊となってしまった六条御息所を、松園にしては珍しく、情念激しく描いています。振り返るようにした姿はおどろおどろしく、それでいて気品は失われていない。高貴な女性が嫉妬に狂った姿が、これでもかと言わんばかりに、見る者に訴えかけてきます。
松園作品の中でも、私の一番のお気に入りであるこの作品に会うのは、今回が3回目。過去2回は東京国立博物館で見たので、展覧会として別の美術館で見るのはこれが初めてでした。3度目の今回も、見た瞬間に鳥肌が立ち、迫力に圧倒されました。
「焔」を描いた当時、松園はスランプに陥っていたと言います。思うような作品ができないもどかしさが、このような激しい作品を生み出したのでしょう。

楊貴妃


「焔」の後に描かれた「楊貴妃」も、お気に入りの作品です。湯あみを終えた楊貴妃を描いた作品ですが、とにかく描写が緻密で、透けた障子の裏側にいる侍女や調度品も、一切手抜かりなし。障子を前面に、すだれを奥に配したことで、多層的な空間を生み出しています。

天保歌妓

凛とした女性を描いた作品*2としては、「天保歌妓」を推したいです。鮮やかな青の振袖を身にまとって、颯爽と出かける姿。まさにドヤ顔と言っていい、すがすがしい表情です。芯の強い女性を好んで描いた松園らしい作品です。


「静」は、源義経の愛人、静御前を描いた作品です。都落ちの道中、別れを切り出された静。同行したいと懇願するが受け入れられず、それならばと烏帽子を付け白拍子の姿となって、舞を舞おうとする瞬間を切り取りました。離別に際して決意を持って義経へ舞を捧げる静の姿を見事に描ききったと言えるでしょう。

虹を見る

「虹を見る」は二曲一双の屏風になっている作品です。右側の赤子を抱いた母親と、左側の腰掛けた女性。どちらも右上方を見上げています。その視線の先には、ごくごく淡い色彩で描かれた虹。空間を広く取った中に、日常のふとした喜びの瞬間が感じられる不思議な絵です。

その他の作品

他にも、恋慕の情で狂ってしまった女性を描いた「花がたみ」、能の師匠・初世金剛巌の舞姿を写し取った大作「草紙洗小町」、母の包容力・優しさがにじみ出る「母子」、鼓を打つ瞬間の張り詰めた空気を表現した「鼓の音」……。名作・傑作が勢揃いで、とても適当には見ていられませんでした(笑)

*1:10/5〜10/17のみ展示

*2:凛とした女性と言えば、やはり最高傑作「序の舞」なのですが、後期展示のため、今回は見ることはできませんでした。