劇場版 機動戦士ガンダム00 感想

http://www.gundam00.net/
日曜日に、有楽町の丸の内ピカデリーで「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」を見てきました。
夜の回ということで、満席とは行かず半分くらい。端の方は結構空いてる感じでした。
以下、完全にネタバレを含みます。

あらすじ

人類とイノベイターの戦いから2年、人類は武力に頼ることのない、統一された世界を目指して奮闘していた。イノベイターとなった刹那は、ソレスタルビーイングの一員として、人類意思統一のために密かに活動を続けていた。そんな中、130年ぶりに木星圏から探査船が戻ってくる。それは、人類の存亡を賭けた最大の戦いの始まりであり、イオリアの計画よりもずっと早い「来るべき対話」の始まりでもあった・・・。

総評

監督自ら「最もガンダムから遠い作品」と言いながらも、作品としてはよくまとまっています。人間対人間ではないことで、賛否両論は少なからずあるでしょうが、私はこういうガンダムも良いと思いました。人間同士の戦いという構図を捨てたことで、ガンダムという縛りにこだわることなく、新たな作品を作り上げられたと思います。
「来るべき対話」とは何か。問題を提示した上で、対話することの大切さを終始一貫して訴えた点で、テーマはかなり分かりやすいです。ただ、刹那とティエリアがELSの意識に触れたときに「そうか!」みたいな感じでELSの真意を解説する所など、あまりに物わかりが良くて、お行儀が良すぎる。悪く言えば「ご都合主義」的な所も見えないではない。物語のまとまりを重視したゆえなのかもしれませんが、そこに一抹の物足りなさを感じました。もう一歩突き抜けてくれれば、手放しに喜べたのですが、それは欲張りすぎというものでしょうか。
ストーリーは慎重に組み立てられていると思います。前半のパニック映画っぽいミスリードを誘う展開、中盤のELS発見から絶対防衛線展開までの世界の動き、後半の戦闘およびELSとの対話。これまでの00の物語を踏まえて考えたときに、ELSという題材を用いて物語を構成するならば、(細部は異なっても)今回のような展開以外は考えにくい。すなわち、結局刹那がイノベイターである限り、彼が決断し、彼がダブルオークアンタに乗り込んで対話しなければならないのは、やはり仕方がないのでしょう。
第1シーズン・第2シーズン・劇場版を通して見ると、イオリア・シュヘンベルグの3段階の計画をきちんと描いていることが分かります。そういう意味でもこの劇場版は必要だったのであり、ガンダム00という物語全体を「広義の三部作」として評価すべきではないでしょうか。

人物

テレビ版から継続して登場していたキャラクターが、皆丸くなっていたのが印象的でした。沙慈やルイス、グラハム・エーカーアンドレイ・スミルノフはもちろん、ビリー・カタギリやミーナ・カーマインも、比較的心の安定を得ているように描写されていました。言い換えれば「愛に溢れている」といった所でしょうか。カティ・マネキン/パトリック・コーラサワー夫妻の仲むつまじき描写、ミレイナがティエリアにさらっと告白するあたりにそれが感じられます。まあ、ビリーとミーナがくっついていたのは驚きでしたが。
そんな中、一人だけとんがっていたのは、劇場版での新キャラ、デカルト・シャーマン。純粋種イノベイターとして発見された彼は、モルモットとして実験を繰り返され、人間扱いをしてもらえない状態。そりゃ屈折もするわけです。出現したELSに対しても、ひたすら攻撃し続けて、最終的に取り込まれてしまいました。シャーマンの存在は「対話」に至ることができない人類の心の壁を表現したかったのだと理解しましたが、すこし劇中での扱いが勿体なかった気がします。ただあの場面で死なないと、後の展開でおかしくなるような気もする*1ので、仕方ない面もあると思います。
また、今回フェルトはヒロイン的な役割で、刹那の復活を願うという重要な位置を占めています。本来ならマリナ姫が担うべき所ですが、トレミーには乗れないので、この人選もやむなしと言った所。でもテレビシリーズではあまりヒロインという感じでもなかった気がするので、若干の違和感はありました。

戦闘シーン

戦闘は、ELSが「敵」として出てきたため、従来のモビルスーツ戦は影を潜め、大量のELSを掃討するという、ガンダムでは類を見ない特異な戦闘シーンが描かれました。この構図はマクロストップをねらえ!でもあったわけですが、ガンダムでこのような戦闘を見れるとは。宇宙に弧を描いて襲ってくるELSを、ガンダムが撃ち落としまくる、って誰が予想できたでしょう。見てる最中は、正直「水島てめえやりやがったなw」とニヤニヤしながら見てました。
反面、モビルスーツ戦を期待していた人には期待はずれというか、なかなか辛い作品だったことと思います。ただモビルスーツ戦や対艦戦が全くないのか、というとそういうわけでもなくて、相手を理解するために姿形を模倣するというELSの性質を利用して、ELSをガンダムやら巡洋艦やらに変形させていました。ここらは発想の勝利ですが、MSや戦艦の構造が複雑なことを考えると、初っぱなから変形させるわけにも行かず,登場したのは後半のほんの一部分だけでした。

音楽

メインテーマであるUVERWORLDの「クオリア」は、物語のイメージにぴったりで、まさに名曲と言えるでしょう。また、バックホーンが歌うOPもこれまでの00の雰囲気を引き継いだ感じが出ていて、なかなか良かったと思います。
ただ、石川智晶の挿入歌は、個人的にはちょっと合わないかなと感じました。物語後半、ELSに対する絶対防衛線が破られるところで使用されているのですが、その割には緊迫感も悲壮感もあまり曲からは感じられない。石川智晶が悪いというわけではなくて、単に曲の雰囲気の問題だと思うのですが、残念ながら私にはちょっと合いませんでした。
そして忘れてはならないのは、川井憲次による劇伴音楽。テレビ版でも秀逸なBGMを数多く提供してくれていましたが、今回もご多分に漏れず、過度に作品を邪魔せず、要所要所で締めてくれています。サントラ買ってもいいかも。

余談

今回の劇場版00、スパロボには出しにくいでしょうね。強大な力を持ちつつも、人間を理解していないだけで(いわば勘違いで)攻撃してくるELSってのは、敵としてものすごく使いづらい。敵が強いのに、攻撃すること自体が間違いなのだから、戦い自体が無意味。さらに、純粋に相手を知りたいがためにやってきてるので「トップをねらえ!」の宇宙怪獣と同じような扱いもできない。難しいですねー。まあその辺はスパロボ制作陣が考えることですが(笑)

*1:容易に想像できるのは、取り込まれたシャーマンがELSと同化して襲ってきたりするとかですが、そんなことをするとストーリーの軸がぶれることは確実