横浜美術館 ドガ展 感想

http://www.degas2010.com/
土曜日に、みなとみらいにある横浜美術館で開催されているドガ展へ行ってきました。

展覧会概要

フランス印象派の画家ドガは、バレエの絵を多く描いたことで有名です。本展は、日本では21年ぶりの回顧展。「大回顧展」と銘打っているだけに、オルセー美術館から出品の45点を含む、ドガの作品約120点を公開。今回、ドガのバレエ画で最も有名な傑作「エトワール」が初来日していることもあり、注目の展覧会と言えます。

感想

3章構成で、ドガの生涯・作風や題材の変遷を追っていく、一般的な回顧展の形式になっています。正直私は「バレエの人」程度の認識しかなかったのですが、単なる印象派にはとどまらない、多彩な表現を目指した画家であったことを思い知らされました。
第1章は、古典主義への信奉を背景に持つドガが、印象派の画家たちと出会うまでの作品を展示しています。デッサン力の緻密さには目を見張るものがありますし、肖像画は構図の巧みさから、モデルの人となりが見えてくるほど秀逸です。また、競馬場を題材とした作品群では、レースの一場面を切り取ろうと努力した形跡が見え、その後の印象主義への変遷をうかがうことができます。
第2章は、印象派展に参加してからの作品を中心に展開。室内を描いた作品、高度なデッサン力で描かれたスケッチを元に、アトリエで構図を再構成して作られたと言います。しかし、「エトワール」や「バレエの授業」など、見れば見るほどその場で実際に見てきたように感じるのは不思議ですね。版画やパステルといった新たな表現技法に挑戦している所も確認しておきたい所です。
第3章では、印象主義を超えて、新たな表現を目指したドガの作品が展示されています。注目すべきは写真技術の利用。多くの肖像画家を廃業させる原因ともなった写真技術をいち早く導入し、作品へ応用したことは驚きです。また、裸婦表現に対するこだわりも見逃せません。写真技術を裸婦表現に利用した「浴後(身体を拭く裸婦)」は、その極致とも言える作品です。


全体を通してみると、ドガの代表的作品がほぼ網羅されている、良い展覧会だと思います。古典主義という伝統的表現から出発しながら、印象主義を通じて様々な表現に挑戦していった、ドガの作品への態度を感じられることでしょう。
会期が長いこともあり、私が行った日曜夕方にはそれほど混雑度も高くありませんでした。興味があれば、一度足を運んでみると良いと思います。

おすすめ作品

私が特にこれはと思った作品をいくつか紹介します。作品名の前についている番号は出品リストの作品番号です。

17 木蔭で死んでいるキツネ
比較的初期の作品。題名通り、森の中で死んでいるキツネを描いている作品です。初っぱなに「バレエの画家」というイメージからはほど遠いこの作品を見せられて、ドガという画家は一筋縄ではいかないと感じました。古典主義に基づくのであれば、何か神話的宗教的背景があって死が描かれることが多いのですが、この作品は特にそのような背景もないようで、眠るように死んでいるキツネがただ単に描かれています。なぜか、恐ろしげな雰囲気もなく、よくある森の中の光景という印象を受けます。
22 エドモンド・モルビッリ夫妻
今回出品されている肖像画の中で、最も惹かれた作品。ドガの妹夫妻を描いたものですが、とにかく目力のある夫婦です。一見してこの二人は親密なのだなと分かるくらい、計算された構図と表現で描かれています。

35 綿花取引所の人々(ニューオリンズ
当時の社会風俗がよく分かる、綿花取引所での業務の一コマを描いた作品。広角レンズで捉えたような奥行きのある構図の中に、人々の働く様をありのままに描いています。仕事の様子がつぶさに分かるほどの精緻な描写に目を奪われることでしょう。

44 エトワール
今回初来日の、ドガの傑作。この作品だけが一点展示です。バレエを題材とした作品は数多く作られていますが、この「エトワール」のように、実際に踊り子が踊る姿を描いた作品は稀。高い視点から見下ろすような構図は、実際に劇場の特等席から見下ろしているような感覚を味わえます。この作品では、スポットライトを浴びるバレエスターの輝きを表現するため、モノタイプという版画技法と、画材としてパステルを用いています。そのような技法の数々も、是非間近で感じて欲しい作品です。

41 バレエの授業
踊り子たちを前に、教師が授業を行う場面を描いた作品。いかにも実際の場面をスケッチしてきたような印象を受けますが、実際にはそれぞれの踊り子のスケッチを元に、構図を再構成したものだそうです。にわかには信じられないほど、真実みのある描写です。

72 浴盤(湯浴みする女)
ドガのフェチシズムが強く感じられる作品。浅いタライの中で、しゃがんで首筋を洗う女を上から覗くようなアングルで描いています。この時点でかなり偏執的ですが、特に後ろ姿で腰から尻へのラインを強調した作品が多いので、彼が裸婦の表現によっぽどこだわっていたのが分かります。実際、発表時にはかなりの批判を受けたといいますから、当時の画壇の衝撃の程がわかります。ただ、フェチシズムは感じるもの、私自身は実際の作品をみて、なぜかエロさはそれほど感じませんでした。変に理想化されていない、ありのままの女性の姿を捉えようとした結果なのでしょうか。

おまけ

リンコと撮ってきました。ドガ展の看板が掛かる横浜美術館正面玄関と、崎陽軒で食べたシウマイ定食です。ドガとあんまり関係ないですねw