上村松園展 2回目

先週の土曜日に、上村松園展2回目に行ってきました。理由は、展示替えの作品があるため。展示替えされた作品の中でも、松園の最高傑作「序の舞」を見たいが為に行ってきたようなものです。
前回は金曜の夕方に行ったのですが、今回は土曜の夕方。混み具合は断然違いました。とは言うものの、雨がぱらついていたので、行列ができるほどではなし。まあまあの混み具合、という感じでした。
少し残念だったのは、展示替えされていたので、通期展示の作品の位置が少し変わっていましたが、「序の舞」が展示されている最後の部屋はやはり人の滞留が発生していました。展覧会の構成上、「序の舞」は最後に持ってくるしかないんですが、もうちょっとなんとかならなかったのかなあ、とは思いました。

今回は、展示替えされた主な作品を中心に感想を述べたいと思います。

雪月花


三の丸尚蔵館所蔵。言うまでもなく御物です。
大正5年に、当時の皇后から依頼を受けて、完成に21年を費やした作品。皇后から依頼を受けたとあって、受けた使命の重大さから、なかなか構想がまとまりきらなかったのでしょう。最後の半年は、他の仕事をすべて断って、この雪月花の制作に挑みました。早朝に障子を30分程度開け放って作った塵ひとつない仕事部屋で、身を清めてから仕事に臨んだといいますから、彼女がこの作品に懸けた意気込み、強い意志を感じます。
作品は雪・月・花の3幅からなっていて、それぞれにモチーフが異なりますが、絵から感じる雰囲気もそれぞれ違います。子どもが花と無邪気に戯れる「花」、若い乙女2人が月見に興じる「月」、そして月よりも少し年を経た女性が、降り積もる雪景色を見ようと簾をあげる「雪」。緻密な描写の中に,三者三様の景色が手に取るように感じられる。名作です。


能楽「砧」をモチーフにした作品。帰らぬ夫を待つ女が、故事に倣い砧を打って心を慰めようとする。遥か遠くの夫を想う女を、静かな立ち姿で表現しています。
1回目に展覧会を見たとき、図録を買っていたので、どのような作品かは知っていましたが、実物を見て驚きました。ただ立つ姿、それだけなのに、こうも圧倒されるとは。非常にシンプルな立ち居振る舞いの構図の中に、夫を想う一途な心がひたすらに表れている。
なぜそう感じるのか、私にはついに分かりませんでしたが、ただただ感動するそんな作品でした。

序の舞


東京藝術大学蔵、重要文化財。現時点での松園唯一の重文指定作品です。
目にも鮮やかな大振袖を身につけ、完璧な文金高島田を結った若い女性。緊張した面持ちで、序の舞を舞う姿が、ほぼ等身大に描かれています。
松園は、この作品で「なにものにも犯されない、女性のうちにひそむ強い意志」を表現したといいます。凛とした表情で序の舞を舞う姿は、近寄りがたい雰囲気を放つとともに、芯の力強さを見る者に訴えかけます。
序の舞とは、能の中でも女性がシテ(主人公)となる「鬘物」と呼ばれる曲目で舞われる、最も「位の重い(テンポが遅い)、上品な舞」を指します。ハレの舞台で、このような難しい舞を、若い女性が舞うということは、この場に至るまでにとてつもない稽古を積んだことが窺い知れます。また、舞っているこの瞬間も、かなりのプレッシャーがかかっていることでしょう。張り詰めた空間で舞い上げるその姿は、こちらまで背筋を伸ばしてきちんとしなければならない気持ちにさせられます。
重文指定の名に違わぬ、名作でした。